コラム

公開日:2025/7/11
著者:田村好史先生 順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー 代謝内分泌内科学 教授​
 

「骨密度は20代でピークを迎え、それ以降はあまり上がらない」と言われています。たしかに、骨量は10代後半から20代で最も高くなり、30代以降は加齢に伴って徐々に減少し、それが閉経後に加速されるのが平均的な骨密度の変化です。そのため、「一度骨密度が下がったらもう元には戻らない」と考えてしまう方も少なくありません。

しかし、それは必ずしも正しくありません。骨は一生を通じて絶えず代謝(リモデリング)を繰り返していて、生活習慣次第で改善の余地があることが明らかになってきています。たとえば、栄養状態と運動を見直した女性では、閉経後でも骨密度の回復を示したことなどが報告されています。

また、骨密度に大きく影響を与えるのは体重です。体重が軽い人ほど、骨密度が低くなることが知られていて、やせた20代の女性の40%くらいは骨密度が低下していることが明らかとなってきています。実際に、日本で実施された研究でも、20歳の時点と中年期の両方でやせている女性は、そうでない女性と比べて骨密度の低下リスクが約4倍高かったことが明らかになりました。その一方で、20歳時にやせていてもその後に体重が標準レベルに達した女性は、骨密度の低下リスクが増加していませんでした。これは、「若い頃にやせていたかどうか」よりも、「今やせているかどうか」が骨の状態に強く影響していることを示しています。

つまり、過去の状態だけで将来の骨を決めつける必要はなく、「今からでも遅くない」ということです。

とはいえ、「じゃあ実際にどうすれば骨密度は上がるの?」と気になる方も多いはず。そこで次回は、具体的に骨を育てるための栄養・運動について詳しくご紹介します。

 

公開日:2025/6/27
著者:田村好史先生 順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー 代謝内分泌内科学 教授​
 

「最近なんだか疲れがとれにくい」「肌や髪のコンディションが悪い」「冷えが気になる」「気分が落ち込みやすい」「便秘がち」――そんな日常の不調、もしかしたらFUS(女性の低体重/低栄養症候群)によるものかもしれません。

FUSは、低体重やダイエットやカロリー制限、食事の偏りなどを背景に、上記のような体調不良や貧血、骨密度低下などを合併している状態です。現時点では、明確な診断基準や治療ガイドラインはありませんが、こうした体調のサインがいくつも当てはまる場合は、FUSのリスクを疑ってみてもよいかもしれません。

まず取り組んでほしいのは、毎日の生活習慣の見直しです。次のようなことを心がけてみましょう。

・朝ごはんを含む1日3食をきちんと食べること
・主食(ごはんやパンなど)と主菜(肉や魚などのたんぱく質)を毎食に取り入れること
・夜はなるべく7時間以上の睡眠をとること
・1日8000歩を目安に体を動かすこと

こうした生活を1〜2週間ほど続けることで、「なんとなく不調だった気分が軽くなった」「朝起きるのがラクになった」といった小さな変化を感じる人もいます。特に、気分の改善や活力の回復は早く現れることがあります。

「病気というほどではないけど、何となく今一つ」そんな違和感をそのままにせず、自分の体からのサインに気づいてあげてください。FUSは、あなたの未来の健康に静かに影響を与える可能性があります。今日からできることを始めて、あなた自身のからだを守っていくと良いと思います。

公開日:2025/6/13
著者:田村好史先生 順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー 代謝内分泌内科学 教授​

 

近年注目されているFUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群)は、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象とした新しい健康概念として提案されています。なぜこの特定の年齢層に焦点を当てているのでしょうか。

その理由の1つは、この時期が女性にとって「人生の土台を築く最も重要な期間」だからです。家を建てる際の基礎工事のように、この時期の健康状態が将来の体調や生活の質を大きく左右する可能性があります。例えば、20~30代は骨密度がピークに達する大切な時期です。この時期に低体重や栄養不足が続くと、骨の形成が十分に行われず、将来の骨粗鬆症リスクが高まります。その理由として、閉経後は女性ホルモンが低下し、それにより骨密度が加齢とともに大きく減ってしまうからです(図)。そのため、若いうちに骨の「貯金」を十分に蓄え、年齢を重ねてからその影響が深刻に現れないようにすることは重要と言えます。

このほかにも、低栄養状態は女性ホルモンのバランスを崩し、月経不順や排卵障害を引き起こします。これは単に妊娠しにくくなるだけでなく、妊娠前の母体の栄養状態が胎児の発育に影響し、早産や低出生体重児のリスクを高める可能性があります。つまり、母親の健康状態が次の世代の健康にまで影響を及ぼす可能性もあります。

閉経後の女性では、ホルモン変化や加齢そのものが健康問題の要因となる比重が高くなること、FUSへの対策の目的が異なること、などから、閉経前の女性とは枠組みを変える必要があると考えられます。そのため、今回のFUSのステートメントからは18歳から閉経前までの女性を対象とした指針としています。

しかしながら、閉経後の女性でも無理なダイエットなどを行えばFUSに含まれる症状や疾患が出現する可能性が高いです。現状では閉経後の女性においてもFUSに含まれる症状(倦怠感や冷え、うつ症状など)に注目し、普段の食生活や運動などを見直すきっかけにするのも良いかもしれません。


公開日:2025/5/30
著者:田村好史先生 順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー 代謝内分泌内科学 教授​
 
「たくさん食べても太らない」「周りからうらやましがられるけれど、実は体重を増やしたい!」そんな悩みを抱えている方はいませんか?
人の体型は実に多様で、生まれ持った体質(遺伝など)に大きく左右されます。その中でも「体質性やせ」という特性があることをご存知でしょうか。これは、ダイエットや過度な運動をしているわけでも、痩せたいと考えているわけでもないのに、長期間にわたって低体重の状態が続く体質的な特徴のことです。
体質性やせの方は一般的に体重が増えにくい傾向がありますが、ホルモン分泌や月経周期は正常に保たれていることが多いとされています。18~29歳で日本人女性の痩せている方の約40%が、意図的な減量行動をしていないという報告もあり、体質的な要因の存在が示唆されています。
体質性やせは病気ではありませんが、長期的な健康管理において注意すべき点があります。最も重要なのが骨の健康です。低体重の状態が続くと骨密度が低下するリスクがあり、若年期に十分な栄養を摂取できていないと、将来的な骨粗鬆症や骨折のリスクを高める可能性があります。
体質性やせの方は概ね健康な方が多いですが、定期的な健康診断を受け、骨密度測定や血液検査で栄養状態を把握すると良いかもしれません。また、総エネルギー摂取量だけでなく、ビタミンDやカルシウムなど、骨や全身の健康に重要な栄養素をバランス良く摂取することを心がけましょう。
体質性やせは生まれ持った特性であり、それ自体を責める必要はありません。重要なのは、自分の体の特性を理解し、それに合わせた適切なケアを行うことです。体型の多様性を受け入れながら、将来にわたって健康を維持するための知識と習慣を身につけることが、健やかな人生を送る鍵となるでと思います。

公開日:2025/5/23
著者:田村好史先生 順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー 代謝内分泌内科学 教授​

「食べなさすぎ」による体調不良=低栄養が、若い女性から高齢者まで幅広い世代で問題になっています。低栄養とは、健康を保つために必要なエネルギーや栄養素が不足している状態を指します。エネルギーが足りなければ体重が減り、体格指数(BMI)が18.5未満になると「やせ」とされ、栄養不足のリスクが高いと考えられます。では、実際にどれくらいの人が当てはまるのでしょうか?厚生労働省「国民健康・栄養調査(2023年)」によると、20代女性の約20%がBMI18.5未満のやせに該当します。さらに、30代以降の女性にも依然としてやせている人が多く、必要なカロリーを摂れていないケースが少なくありません。その背景には、強いやせ志向や「太りたくない」という気持ちがあり、1日あたりのエネルギー摂取量が不足している人が多いのです。エネルギーだけでなく、栄養素の不足も見逃せません。たとえばビタミンB群や鉄、カルシウム、ビタミンD、たんぱく質などは、現代女性が特に不足しがちな栄養素です。研究によると、見た目には健康そうでも「隠れ低栄養」状態にある人が多いとされています。では、どう気づけばよいのでしょうか?「疲れやすい」「肌が荒れやすい」「生理が不規則」などの症状があれば、栄養不足が関係しているかもしれません。また、骨密度の低下、貧血、筋肉量の減少も低栄養のサインです。放っておくと、将来的な健康リスクにもつながります。このような低栄養は、日常の食べ方のクセや無意識のカロリー制限から始まります。無理なダイエットや、サラダだけの食事、菓子パンや飲料で済ませる習慣など、思い当たることはありませんか?まずは1日3食をきちんと食べ、主食・主菜・副菜をそろえることが大切です。あなたの「なんとなく不調」は、食生活の見直しで変わるかもしれません。今こそ、自分の体と向き合い、「本当に必要な栄養」を届けてあげましょう。